優しくしないで
「おーきィたー」
「・・・うっせ、道の真ん中で叫ぶな恥ずかしい」
思いっきり眉間に皺を寄せてふり返ってやると思った通り神楽は嫌な顔をした。
(いつものやりとりだ、逆パターンもあるけど)
「フン、まァいい今日の私は機嫌良いアル」
そう言ってフンフーン、と随分とへたくそな歌を歌いながら傘をくるん、と回した。
「・・・じゃ、俺ァ帰るから」
踵を返してアイツに背を向けた、ら。
「待つヨロシ、どーしたネお前」
クン、と後ろから引っ張られるのを感じて後ろを振り向いた。
思った通り、アイツが隊服の裾を引っ張っていた。
「別に、ってか、離せ」
グイ、と隊服を引っ張り返したけどまた引っ張り返してきた。
(のびるじゃねェか)
「何か、あったアルカ」
「何、もねェよ、お前しつこい、離せ」
「離さない、何かあったロ」
「ない」
「ウソ」
「嘘じゃ、」
「嘘、」
のれんに腕押し状態、まだコイツは俺の隊服を掴んで離さない。
視線を感じたけどアイツから視線をはずした。
「のびる、てかのびてる、いい加減離せ」
「イ、ヤ、ダ」
「テメ、」
さすがにちょっといらついてきた。力ずくで離させるしかないか。
「だって」
下から小さい声が聞こえて目線をまた神楽に戻す。
(俺とコイツって、こんなに身長差あったっけ)
そんな今更な事を考えていたら(ホント、今更だ)神楽がグイッと引っ張ってきた。
それで俺は意識を神楽に戻した。
目が合う。
青い、深い青が俺をのぞき込む。
「ひどい顔してるヨ」
「・・・」
「お前がそんなだと調子狂うアル」
「そりゃ、わるかったねィ」
「全くアル、ご飯食べて寝たらスッキリするアルヨ」
いつもとは違って俺を気遣うような神楽の物言いに笑った。
(その時の俺の声はかすれていたけど)
「困ったときは、私に言うヨロシ!助けてやるヨ、一回だけ」
「一回限定かィ、ま、そりゃ頼りになりまさァ」
「オウヨ、じゃーな、帰るアル」
「おー、帰れ帰れ俺も帰るから」
「うっさいアル、迷子なんなヨ」
「こっちのセリフでィ」
歩き出して、アイツは少し離れたところで立ち止まって俺の方を見た。
(その目はいつもみたいにバカにしたような目じゃなくて、)
けど何も言わず走っていった後ろ姿を見つめた。
「優しくするアイツなんて、きもちわりーや・・・」
(そんなに優しくされると勘違いしてしまう)